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  犬神家の一族研究その4 青沼親子恐喝暴 行事件 塩梅海苔巻  今回は、野々宮家に続いて青沼家である。この一家もちょっと読んだくらいでは、どんな家なのかなかなか分からない。しかも、青沼家は、親子で重要な役割を果たしている。佐兵衛と青沼家の関係を表にまとめたものが表3である。 表3 佐兵衛と青沼家に係る出来事の年表 年代 主な出来事等 大正9年以前 犬神製糸工場で働く菊乃、佐兵衛に見初められ町はずれに住まわせ、佐兵衛による寵愛が始まる。佐兵衛菊乃に斧琴菊を与える。 大正10年秋 静馬が生まれ、三姉妹による青沼親子恐喝暴行事件が起きる。三種の家宝は取り上げられ、青沼母子も怪我を負う。 大正10年以降 青沼母子富山へ移住する。静馬は津田家に預けられ、津田静馬を名乗る。中学までの教育を受ける。菊乃、琴の師匠宮川松風と出会う。 昭和17年 宮川松風死亡。菊乃、宮川香琴となる。 昭和19年春 静馬、金沢の部隊に入隊する。その時、菊乃と親子の名乗りを上げ、犬神家との関わりも菊乃から聞く。 昭和20年8月1〜2日 富山大空襲があり(筆者推測。)、津田家はなくなってしまう。恐らく焼失したものと思われる。 昭和22年 那須市を担当していた琴の師匠が亡くなり、菊乃に代稽古の話が来て、菊乃は松子の琴の師匠として、犬神家に出入りすることになる。 昭和24年 佐兵衛死亡。静馬、仮面の佐清として犬神家に潜入する。香琴は自分が菊乃であることを金田一らに告げる。 〇考察  この一件は前回から続く。青沼家がなかったら、犬神家の一連の事件は起きなかったのである。まず、菊乃から説明していこう。菊乃は18.9歳で犬神製糸工場の女工だった。当時佐兵衛は52,3歳であった。2人が出会ったのは、佐兵衛の年齢から考えて、大正9、10年くらいの出来事だと思われる。仮に菊乃が19歳だとすると、菊乃は明治35年の生まれということになる。但し、静馬が大正10年に生まれているので、遅くとも2人がであったのは大正9年前後であっただろう。  古館の調べにより、菊乃は晴世のいとこの子に当たることが分かった。本文にも昔美人であったという記述があるし、きっと佐兵衛は晴世の面影を菊乃に見たのであろう。このようにして、佐兵衛と菊乃が愛を育んでいたところに起き、菊乃を震撼させたのが、青沼親子恐喝暴行事件である。 〇青沼親子恐喝暴行...
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  犬神家の一族研究その3 塩梅海苔巻  今回は、佐兵衛と野々宮家の関係についてふれていきたい。何と言っても、まず、表1からご覧いただきたい。  犬神佐兵衛は昭和24年に81歳で亡くなっているため、慶応4年あるいは明治元年生まれと考えられる。すると、佐兵衛が17歳の時は、数え年で明治18年となる。以下、年代はこのことを基準にして考察している。 表1 佐兵衛と野々宮家との関係 およその年代 佐兵衛 野々宮家との関わり 明治18年晩秋 17歳、那須神社の床下に流れ着く。 大弐、那須神社の床下で佐兵衛を発見し、保護する。 明治18年頃 大弐と衆道の契り。 晴世、野々宮家を出る。 明治20年頃 佐兵衛、野々宮家を出る。製糸工場に就職し1年で仕組みを習得。 晴世、野々宮家に戻る。 明治21年頃 佐兵衛と不倫の関係に陥る。 ?年 祝子が生まれる。大弐、自分の子として祝子を届け出る。 明治21年頃 犬神製糸会社をつくる。佐兵衛、大弐から送られた斧琴菊を犬神家の家宝とする。 大弐、佐兵衛に犬神製糸会社の資金を出す。斧琴菊の神器が大弐から佐兵衛に送られる。 明治44年3月25日 大弐、佐兵衛と一緒に那須神社の唐櫃を封印する。 明治44年5月 大弐68歳で死去。 大正13年 珠世生まれる。猿蔵と一緒に育つ。 昭和19年以前 晴世死去。祝子夫妻も亡くなり、珠世、犬神家に引き取られる。 昭和24年 2月18日 81歳で死去。 〇考察  しかし、佐兵衛という人は、波乱万丈な人生である。こんな劇的な人生を送った人が亡くなるところからこの事件は始まるのである。菊乃の回想では、何年か寝たきりのときがあったと証言しているので、佐兵衛は遺言状について相当考えたのだと思われる。松子も珠世を殺してしまうと、静馬に遺産がいくので、珠世を生かしておくしかない。よく考えられていると言っている。  この一連の事件は、佐兵衛と野々宮家の関係を把握しないと、核心に触れることはできない。青沼家とのつながりもこの延長線上にあるし、遺言状もこの野々宮家に対する佐兵衛の思いが具現化したものである。  以下は全て佐兵衛から見た関係であるが、これらの関係は、大山神主が那須神社の唐櫃の中にあった文書を調べて分かったことであり、物語の大どんでん返しの一因になっている。次に今回の事件における野々宮家の裏設定について述べる。それ...
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  犬神家の一族研究その2 登場人物について2 塩梅海苔巻  今回は前回の続きで、佐兵衛から見た犬神家と関連する家の人物相関図について考えてみたい。図2がそれに当たる。前回の図1とどこが違うか。それは、青沼家の立ち位置が違うのである。このことが、犬神家の財産相続において、決定的に優遇されている要因となっている。   図2 犬神家人物相関図…本当の人間関係を表している。 〇考察  図2で見ると、青沼家の本当の立ち位置が見えてくる。菊乃の年齢は、三人娘よりも若い年代であるが、実際の立ち位置は三人娘の母親と同じであり、晴世から見ていとこの子に当たるためであるが、佐兵衛に直接寵愛を受けている。静馬も年齢は佐清と同じであるが、彼の実際の立ち位置は「子」なのである。「孫」ではない。しかも、「長男」である。これは、佐兵衛からすれば、好きでもない妾の子である三人娘と、佐兵衛が本当に愛した菊乃の男の子である静馬は佐兵衛から見てとても大事な子なのだろう。だから、佐兵衛は菊乃に斧琴菊を与えてしまったのだろう。静馬が男の子として生まれてしまったことが、三人娘との対比で、この物語を複雑にしている要因となっている。  もう一つ、私が気になることがある。それは、子世代における、三人娘の婿養子の立ち位置である。この人達は、本当に影が薄い。すでに、実質犬神財閥の各支店を取り仕切っているのにも関わらず、財産はともかく事業の方も孫世代に譲らなければならない遺言状になっている。婿達も、その子供達に関する記述を見ても、それほど優秀であるという記述にはなっていない。佐兵衛が信頼しているそぶりも見られない。であるならば、どうして現に事業を取り仕切っている婿養子ではなく、佐兵衛から見て孫世代の三人に事業が譲られる遺言になっているのであろうか。  それは、三人娘と婿養子の世代の年齢が関係していると思われる。佐兵衛自身は81歳というこの当時としては、とてつもない長寿を保った人である。しかし、戦後すぐの日本における日本人の平均寿命は、男子が50歳くらいで、女子が53歳くらいである。(厚生労働省のデータ「完全生命表における平均余命の年次推移」による。)ということは、三人娘は基より、婿養子の2人もすでに50代であり、すでに「晩年」なのである。実際、松子の配偶者はすでに亡くなっている。  だから、子世代の影が薄いこと...

犬神家の一族研究

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  犬神家の一族研究その1 登場人物について 塩梅海苔巻 1.はじめに  これからお読みいただく文章は、すでに「犬神家の一族」を読み終わっていることを前提として書いている。はっきり言ってネタバレである。よって、まだ未読の方がいらっしゃるのであれば、先に本文を一読しておくことをお勧めする。  今回の研究は、角川書店「金田一耕助ファイル犬神家の一族」(角川文庫2897、平成18年11月5日改版二十二版)の文庫本を基にして書いている。 2.登場人物と用語集  まずは、登場人物から見ていきたい。この文書では、例えば「犬神佐兵衛」をフルネームで表記せず、「佐兵衛」のように表記する。また、筆者独特の表現もあるので、その点も留意して読んでいただきたい。  また、この事件が起きた年代だが、珠世の年齢から考えると分かりやすい。珠世は大正13年生まれの26歳であるから、この事件が起きたのは、昭和24年であることが分かる。 (1)犬神家 ①犬神佐兵衛(この文書では「佐兵衛」以下同様。没年昭和24年2月18日。81歳) ・日本の生糸王、犬神財閥創始者。自分の郷里を知らない。「犬神」という名字もあやしい。 ・美少年で衆道の契りを大弐と結ぶ。生涯正式な妻を持たなかった。晴世と不倫関係 ②犬神松子(松子)…佐兵衛の長女。52,3歳くらい。 ・夫は那須市の犬神製糸本店支配人。既に亡くなっている。 ・犬神家の一連の殺人事件の犯人。佐清と静馬がその後の斧琴菊に纏わる偽装をしている。 ③犬神佐清(佐清)…松子の一人息子で29歳。太平洋戦争でビルマに行き、復員したばかり。ビルマから復員したとき、マフラーで顔を隠し「山田三平」と名乗って那須市に現れる。犬神家の殺人事件の際、仮面とマフラーを使って静馬と入れ替わったこともある。静馬の命令で犯人である松子の殺害の後、共犯者として死体を斧琴菊に見立てて偽装している。 ※松竹梅の三姉妹は、後になって長女に相当する祝子が現れるので、佐兵衛から見ると、戸籍上は長女だが、血縁上、松子は二女にあたる。以下、竹子、梅子の扱いも同じである。 ④犬神竹子(竹子)…佐兵衛の次女。 ⑤犬神寅之助(寅之助)…竹子の夫。東京支店支配人。 ⑥犬神佐武(佐武)…寅之助と竹子の長男28歳。今回の事件で「菊」に見立てて殺される。 展望台で珠世を襲う。 ⑦犬神小夜子(小夜子)…寅之助と竹子...